こんな疑問をお持ちではありませんか?
なぜ、鍼をすると痛みが楽になるのか?
鍼灸で、肩こりや腰痛が楽になるって本当?
鍼灸治療を受けると肩こりや腰痛が楽になります。
鍼灸鎮痛のメカニズムについては、科学的研究によって解明されたエビデンスも存在します。
この記事では、エビデンスにもとづいた鍼灸の痛みを楽にする効果をお伝えします。
- 人間に備わる鎮痛の力を引き出すのが鍼の役目
- 鍼鎮痛のメカニズムを5つ紹介
- 血行促進で痛みが楽になる
鍼灸は、人間の体に備わる鎮痛の力を引き出すサポートをします
鍼が痛みをしずめる方法は、湿布や鎮痛薬とは違ったメカニズムで、痛みを沈めます。
湿布や鎮痛薬は、外部から痛みを沈める作用がある成分を投入することで痛みを沈めてくれます。
対して、鍼灸治療は外部からなにも体内に投入することなく物理的な刺激により、体内にもともとある鎮痛の成分を出させたり、体のしくみを利用して、痛みを軽減します。
ここでは、その体内に備わる鎮痛の力を解説した後に、鍼灸鎮痛のメカニズムを解説します。
鍼灸で高める、人体に備わる鎮痛のしくみ
人体は、痛みを発する物質やしくみと痛みを抑える物質やしくみの両方を備えています。
たとえば、たんすの角に足の小指をぶつけたときのことを想像してください。
はじめは、ものすごく痛いですよね。
しかし、時間が経つとともにその痛みはだんだんとやわらぎます。
これは、ぶつけた直後は、痛みを発する物質が放出されて、時間が経過するとともに今度は痛みを抑える物質も同時に放出されるから、だんだんと痛みが和らぎます。
われわれは、痛みを押さえてくれるしくみや物質を体の中にいくつか備えているのです。
鍼灸は、もともと人体に備わる鎮痛のしくみを引き出すことで、痛みを楽にします。
その仕組みもいくつか存在するので、ご紹介します。
オピオイド受容体を利用した鍼灸の鎮痛のしくみ
たとえば、足を捻って捻挫した時は、足首が赤くはれて痛くなります。
この時に、体に起こっている反応を炎症といいます。
炎症が起こると、体の中からいろいろな物質が放出されます。
炎症が起こると、オピオイドという物質を含む免疫細胞がたくさん集まってきます。
余談ですが・・・
オピオイド鎮痛薬というオピオイド受容体に作用することで、鎮痛効果を発揮する薬は、麻薬性鎮痛薬ともいわれ、たとえばモルヒネがあります。
対して、体内で作られるオピオイドには、エンドルフィン類、ダイノルフィン類、エンケファリン類があります。
このオピオイドは、オピオイド受容体といわれる感覚受容体にくっつくことで、痛みを抑えてくれます。
そして、鍼やお灸を炎症患部の周囲に行うと、オピオイドを含む免疫細胞を刺激して、オピオイドをたくさん放出させることができます。
オピオイドがたくさん放出されることで、受容体にオピオイドがくっついて、痛みが楽になるしくみです。
アデノシンA1受容体を介した鍼鎮痛のしくみ
鍼刺激で細胞に微小の損傷が起こると、細胞からアデノシン3リン酸(ATP)が放出されます。
放出されたATPは、分解されてアデノシンになり、アデノシンがアデノシンA1受容体に作用すると、痛みが楽になります。
このしくみを鍼灸で利用する場合、鍼を抜き差しを繰り返す単刺という針の施術方法を使うといいです。
細胞の微小損傷の多く作ることで、ATPの放出量も増えて、あでのしんA1受容体による鎮痛のしくみを大いに利用できます。
ゲートコントロール説による鍼灸の鎮痛のしくみ
ゲートコントロール説というのは、1965年MelzackとWallのふたりの研究者によって発見された鎮痛の仕組みです。
痛みをはじめとした体表の感覚を伝える神経線維は、太いもの(Aβ繊維)から、細いもの(C繊維)までさまざまあります。
太い神経(Aβ繊維)が伝えるのは、触れた感覚(触覚)、押された感覚(圧覚)です。
対して、細い神経が伝えるのが、痛みの感覚です。
太い神経の刺激には、痛みのゲート(門番)のような役割する抑制介在ニューロンを介して、刺激が細い神経からの刺激を抑えるしくみがあるという仮説からこの説が提唱されました。
つまり、太い神経による刺激で、細い神経による痛みの感覚をコントロールできるわけです。
一度は、否定された説ですが、その後修正されて妥当性が高い説だと言われています。
たとえば、体をぶつけたときに手で患部で痛みが楽になった経験はありませんか?
この手で患部に触れることで、痛みが楽になるのがゲートコントロール説を利用した鎮痛になります。
さらに、薬効成分が含まれていないテープ(伸縮性のキネシオテープなど)を貼るだけで痛みが楽になるのは、このゲートコントロール説のしくみのためかもしれません。
テープに触れている感覚で、痛みが楽になるわけです。
湿布を使いすぎている方や湿布が苦手な方は、湿布以外の伸縮性テープに変えてみるのもいいかもしれません。
痛いという刺激は、細い神経で、電気信号として脳に伝達されますが、手で触れたり押さえる(触覚や圧覚)という刺激は太い神経で、電気信号として脳に伝達されます。
つまり、痛みの刺激を触覚や圧覚によって、抑えるわけです。
ゲートコントロールのしくみを利用した鍼灸施術は、ローラー鍼という刺さない鍼であったり、置鍼という針をしばらく刺しておく施術になります。
下行性疼痛抑制系による鍼の鎮痛のしくみ
下行性疼痛抑制系とは、脳の働きによる鎮痛のしくみです。
脳の視床下部という部位から神経伝達物質であるドーパミンを介してはじまり、途中で2つに枝分かれします。
片方は、セロトニン系の経路で、もう一方は、ノルアドレナリン系の経路です。
それぞれ別の経路をたどり、最終的にセロトニンやノルアドレナリンが、脊髄後角に放出されます。
その後、痛覚が遮断されて痛みが緩和されるしくみです。
この流れを、下行性疼痛抑制系の賦活(ふかつ)といいます。
鍼灸で施術する場合は、パルス鍼(電気鍼)や響きや得気などの鍼独特の刺激を与えると、下降性疼痛抑制系のしくみを賦活することができます。
脳の感覚野は、体幹よりも四肢の方が大きなエリアを締めるので、体幹部よりも四肢の方が効果を発揮すると考えられます。
たとえば、腰が痛い場合に、手足に鍼を打つと、患部とはまったく関係な部分に鍼を打っているのに、腰痛を軽減できるのは、この下降性疼痛抑制系による部分もあるかと思います。
鍼灸の間接的な鎮痛のしくみ
直接の鎮痛効果はないものの、間接的に痛みを軽減できる鍼のメカニズムもあります。
- 鍼で筋肉の緊張やこりをほぐす
- 血行促進をする
- 自律神経の調整
鍼で、筋肉の緊張やこりをほぐすしくみ
鍼で筋肉の緊張やこりをほぐすことができます。
これは、鍼で筋肉が硬くなっているところや関節周辺の経穴(つぼ)に鍼を打つことで、効果を発揮できる仕組みです。
Ⅰa抑制、Ⅰb抑制による鍼灸の鎮痛のしくみ
鍼で筋肉の緊張が緩むメカニズムは、筋紡錘や腱紡錘の分布の多いモーターポイントや起始部・停止部を鍼で刺激すると、筋紡錘を介したⅠa抑制や腱紡錘を介したⅠb抑制が起こり筋肉の緊張が低下します。
筋肉は緊張するとこりや痛みを生じます。
つまり、鍼を筋肉や腱に鍼を打ち、刺激を与えることで、筋肉の緊張が低下して、結果的に痛みやこりが改善します。
モーターポイントというのは、神経が筋肉に進入する部位で、起始部や停止部は筋肉が腱に移行して、骨に付着する付近のことです。
筋肉自体に鍼を打ったり、関節周辺にある経穴に鍼を打つことで、このしくみを利用できると、僕は考えています。
トリガーポイントの刺激による鍼鎮痛
トリガーポイントというのは、痛みを発する筋肉のこりのことです。
上の図のように、筋肉の繊維に結び目のような塊ができます。
筋肉(横紋筋)が存在する場所であれば、どこでも発生する可能性があります。
トリガーポイントは触ってみると、コリコリとした感覚があります。
血行促進をすることで、鍼灸で鎮痛するしくみ
血行が悪くなると、痛みを発するような物質が蓄積されることで痛みが慢性化してしまうと言われています。
通常、筋肉が緊張したり、こりができると血行が悪くなります。
血行を促進するには、筋幾の緊張やこりを緩める手段もありますが、血管自体を拡張することでも血行が良くなります。
お風呂上りは、血管が拡張しているため普段の腰痛が楽になることがあるのは、血行が良くなっているからです。
鍼を打つことでも、軸索反射という反応が起こり血管が拡張して血行が良くなります。
軸索反射で、血行を促進する
肌に痛みの刺激を与えると、片方は脊髄から脳に痛み刺激が伝わり、痛みを実感することができます。
他方、脳には伝わらずに、そのまま血管へ伝わる神経刺激もあります。
それが、神経の軸索という部分を伝わる神経伝達である軸索反射です。
軸索反射が起こると、鍼灸の施術部位、周辺が赤くなります。
これをフレア現象といいます。
フレア現象↑
鍼灸で自律神経の調整をして、鎮痛をするしくみ
痛みが長期間に及ぶと、自律神経のうちの交感神経が亢進した状態となり、筋肉の緊張が取れずらくなり、痛みの悪循環が生まれます。
また、精神的なストレスによる腰痛や肩こりも自律神経が関係している可能性があります。
また、内臓の不調も招き、内臓の不調は時として、体表の筋肉の緊張や痛みとして感じられます。
つまり、自律神経の乱れを調整することが、痛みの緩和にも役立つと考えられます。
そして、鍼には、自律神経を調整するしくみがあります。
自律神経を調整して、交感神経が優位な状態を抜けることで、痛みの悪循環から解放される可能性があります。
鍼灸を使った体性ー自律神経反射による自律神経調整
鍼灸で、手足や腹部、背部を刺激することで自律神経を調整することができます。
自律神経を調整する際は、体性ー自律神経反射という体のしくみを利用します。
その中でも、体表の刺激に対する内臓の反応を体性ー内臓反射ともいいます。
内臓や自律神経を調整するために、よく使われる経穴として、各臓器の名前がついている背部兪穴(たとえば、胃兪、肝兪、大腸兪など)や、手足の経穴があります。
これらの、経穴は、先人たちが自律神経の反応を経験則で発見した反応点だと考えられます。
まとめ
鍼灸を使った鎮痛のメカニズムやしくみを利用することで、急性の痛みや慢性の痛みを楽になる科学的エビデンスは存在します。
そのため、痛みの状態が急性なのか、慢性なのか、痛みの原因は何なのかを見極めて、鍼灸の施術方法を柔軟に変えて痛みに対処すると痛みを楽にするのに、とても役立ちます。
痛みでお悩みの方は、ぜひ鍼灸治療をお試しください。
参考文献